Re: 「x8341-3 基 本的要件 4.2.-d 身体の 安全」の不満



みなさま、うめがきです。

知的障害をどうするかという話題や、高齢者の認知的な面をどう扱うか
など、さすがにNAPに来る人たちの視点は非常に鋭くて、学ぶところが
多いです。個々の議論に細かく答えたいところですが、大雑把にいくつ
かの情報提供をします。

まず、知的障害は人の認知機能にかかわることであると定義されていま
す。ガイド71がその点では明快です。認知機能には、知的機能、記憶、
読み書きなどが含まれていて、障害という側面から論じると、知的障害、
精神障害、高機能自閉やアスペルガー、痴呆、失語症、ディスレクシア
(読字障害)、その他の脳の疾病からくるものなどが含まれます。JIS 
X8341シリーズでは推奨用件として、わりと全般的に「認知機能」とし
てひとまとめにしています。そういった認知に関する障害は非常に多様
で、情報分野でそういう障害にどう対応すべきかはまだ十分に議論され
ていない分野ではないかとおもいます。NAPでの議論も含めてこの分野
での知見が十分にえられれば、JISなどでさらに詳しい情報提供をする
ことが、可能になると思います。現時点ではJISにそれらを十分に盛り
込むことはできていないと私も思います。ただ、WCAG1.0に比べて、ユ
ーザビリティよりの記述が増えていることはご理解いただけると思いま
す。「わかりやすい」「一貫している」などのユーザビリティ的な要素
がJISには盛り込まれています。

ただ、ウェブというもの自体が人類の知的活動を支える道具であるとい
う点からみると、認知的な、あるいは知的な障害の中でも重いものに対
応するには、やや専門的なアプローチや新しい技術が必要であろうと思
います。ガイド71では障害の重い場合を除外して扱っているので、JIS
のフレームワークでも、障害の重い人たちに対応することができていな
いのは事実です。これらは、むしろAAC、AT分野が取り組むべき課題と
整理したほうがいいかもしれません。JISでは、アクセシビリティの対
象となる市場を大きくすることに注意を払っており、その結果ややそう
いったケースがおざなりになっているという点は、どこかで補う必要が
あるでしょう。

2つ目に、ガイド71ですが、これは規格を策定するためのツールとして
開発されたものであり、X8341シリーズを作成するために使われました。
したがって、各規格が「サブセット」になっているというようなもので
はありません。JIS X8341-1は共通指針であり、X8341-2以降はそれをそ
の分野でより具体化したものです。したがって、サブセットではなく、
具体化なのです。むろん、具体化する段階でその分野独自の検討が加え
られているので、各シリーズは全体として整合するように努力が払われ
ていますが、基準が一致しているわけではありません。

たとえば、X8341-1 では各配慮事項は独立に扱うことになっていますが、
X8341-3では「可能な限り全部やる」と一歩踏み込んだ記述になってい
ます。この点を鈴木さんがご指摘になりました。たいへん詳細にJISを
読んでくださっていることがわかります。これは、ウェブコンテンツの
もつ特性に合わせた変更ということができるでしょう。ハードウェア製
品の場合、あらゆる障害に1つの機器で対応することは不可能であり、
むしろ製品のバリエーションを豊かにすることで対応する方向を目指す
のはリーズナブルであると思います。しかし、情報コンテンツの場合に
は1つのコンテンツで対応するほうが現実的です。そういう違いです。

もう2つほど書きたいことがありますが、仕事に戻らねばなりません。
次の機会にします。議論の参考にしてください。みなさんの議論がいっ
そう深まることを期待しています。

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梅垣まさひろ ume@xxxxxxxxxxxx
http://www.umegaki.jp/