Re: 研究会 盛況でしたね でも(少し失望)



中根です。

取り止めがなくなりそうな予感がしますが、鈴木さんのメールに関連して、考
えていることなどを少し書いてみます。なお、恥ずかしながら私は視覚障害以
外の障害に関しては、全くの不勉強ですので、頓珍漢なことを書いているかも
しれませんが、その点はご指摘ください。 (実は視覚障害についても不勉強な
のですが…。)

まず、 JISにしてもそれよりも随分以前からの取り組みの結果である WCAGに
しても、視覚障害者のアクセシビリティを向上させるためのものが多いのは、
必ずしも視覚障害者が圧力団体として強いから、というわけではないと思いま
す。 (少なくとも日本では違うのではないかと思います。) がまあ、この点は
本題ではないのであまり考えないことにして…。それよりも、 Webにしてもコ
ンピュータにしても、一般に広く普及する前から、活字媒体にアクセスできな
かった視覚障害者が、デジタル・メディアの可能性に注目し続けてきたこと、
そして当事者を含む関係者が折に触れて問題提起をしてきたことが大きな要因
のような気がしています。 (そういう意味では「声が大きい」 == 圧力団体と
して強い、ということなのかもしれませんね。)

視覚障害者にとってデジタル・メディアは、仮にそれが広く一般に普及してい
なくても、独力でアクセスできる情報量を増やすことにつながるものです。当
然他の障害種別の場合でも、そういう側面はあると思いますが、視覚障害者に
比べればその恩恵は大きくないような気がしています。また、当然視覚障害と
言っても多様な障害なのですが、それでも他の障害に比べると補うべきものが
何かということが明確にしやすいという側面もあるのではないでしょうか。そ
んなこともあって、他の障害に比べると取り組みが活発だったということがあ
るのではないかと推測しています。

しかし、デジタル・メディアが現在のように広く一般に普及したとき、障害の
有無や種別に関係なく、それはコミュニケーション・ツールとしての役割を増
大させ、そして社会生活を営む上で不可欠と言ってもいいようなインフラスト
ラクチュアになります。こうなると、これまでフォーカスが当たることが多かっ
た身体障害だけでなく、最近ようやくその取り組みが表に出てきている認知/ 
学習障害や、鈴木さんがご指摘の知的障害を持つ人々についても、このインフ
ラストラクチュアを使えるようにするための取り組みを進めていく必要が大き
くなります。

さて、それで JIS X 8341-3 や WCAGが知的障害者のアクセシビリティをカバー
できていないのはなぜかと考えた場合、いくつかの理由が思い浮かびます。一
つは、上記のように、他の障害に比べて (他の障害の関係者の声にかき消され
て?) 関係者の声が届いていないということがあるのではないでしょうか。ま
た、他の障害の関係者や、あるいはアクセシビリティに関する取り組みをして
いる人々の側にも、知的障害に対してしっかりと目を向け、そして関係者の声
を聞こうとする姿勢が欠けているのではないでしょうか。 (これは私自身の反
省でもあります。) そして、その結果として、

1. 知的障害と言ってもきっと多様だと思いますが、障害そのものに対する理
   解が低い

2. だから技術的な部分で何が解決できて、何が解決できないのかもよく分かっ
   ていない

ということが起こっているのではないかという気がします。

WCAGや JIS X 8341-3 などに知的障害者のアクセシビリティを向上させるため
の項目が追加されるのが最善であることは間違いありませんが、上のような現
状ではまだまだ時間がかかるような気がします。しかし、将来的にそうなるこ
とを目指して、問題意識を持っているわれわれがやれることをこつこつとやっ
ていくことが懸命ではないでしょうか。

5年前に NAPを作ったとき、私は障害の種別を越えた形で協力することが絶対
的に必要であると考えました。その頃は、おそらく主に身体障害のことだけを
意識していて、認知/学習障害、知的障害に関しては恥ずかしながらほとんど
考えていませんでした。これは、当時 (今もほとんど同じ状況ですが) 私が身
体障害以外の障害に詳しい方を知らなかったということが大きいと思います。
しかし、 5年という年月が流れる中で、 NAPの議論には多くの方が参加してく
ださるようになりました。異なる障害について理解が深い人たち、そして技術
について理解が深い人たちが同じ方向に向かって努力していくことで、まだま
だ多くの取り組みが必要な身体障害以外の障害を持つ人々にとってのアクセシ
ビリティの向上という課題にも取り組んでいくことができそうな気がします。
私自身ができることはきわめて少ないですが (これまでもほとんど何もしてな
いですし (^^;; ) NAPという場が、そのような人々の協調を生む場になってく
れればと強く願っています。

思ったとおり長くなってきましたので、とりあえずこのへんで。

中根雅文


On Mon, 2 Aug 2004 17:57:50 +0900 (JST),
鈴木 啓之 <hi_suzuki@xxxxxxxxxxxxxxxxxx> wrote:
> 茨城県教育庁 総務課 教育情報化 推進担当 鈴木啓之と申します

> 土曜日の研究会の方に参加させていただきました。
> 関係者の並々ならぬ熱意を感じました。ありがとうございます。

> さて、今回のJIS制定に関しては、梅垣さんのお話では
> ビジネスになる/(私見:プレッシャー団体としても強力な)視覚障害者
> のアクセシビリティ向上がメインとのことでした。

> 知的障害児向きには、4.2で規定されず、4.3推奨要件で満たすほかないが
> それも、認知障害や学習障害といった群が主な対象で、知的障害児を
> どうするという視点に欠ける気がします。
> 例えば、知的障害児ににその精神年齢に合わせた電子教材や子供向けの
> Webページを閲覧させるだけで、彼/彼女らのアクセシビリティは
> 確保できるのか? という点も気になります。
> (というか、アクセイシビリティとユーザビリティの議論を楽しみに
> 茨城を朝6時に出て、はるばる参加しましたが、時間がなくて残念でした。)
> 次回を楽しみにしています。
> =======================

> しかしながら、教育現場での状況は、就学する全障害児の78%
> (茨城県の公開統計による)が知的障害児/重複障害児で、
> 視覚障害児は2.5%以下です。75条学級の在籍・通級者には
> 感覚障害児が多いのですが、在籍・通級者は特殊教育諸学校に比べると
> 1/6以下の児童生徒比に過ぎません。
> 感覚障害者/身体障害者は、疾病や損傷により障害区分者が増えてゆきますが
> 知的障害は、学校教育が修了すると、収容施設などに入るケースが多く、
> 障害者手帳の実数以上に大規模な無言の集団となっています。

> (最も社会進出の遅れている群だけに、Web技術の恩恵も高いと思われます)
> ==================================
> 例えば、「先進学習基盤協議会」ですら、
> 「eラーニング・サービスのためのアクセシビリティガイド」に
> 「高次機能障害者」の困難と方策の欄を設けています。
> ===================================
> 茨城県教育庁 総務課
> 教育情報化推進担当
> 鈴木 啓之(ひろゆき)
> 〒310-8588 水戸市笠原978-6
> 電話029-301-5128/ ファクシミリ 同 5139
> mailto:hi_suzuki@xxxxxxxxxxxxxxxxxx