ウェブコンテンツのアク セシビリティに関する日 本固有の問題の検討
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- Subject: ウェブコンテンツのアク セシビリティに関する日 本固有の問題の検討
- From: WATANABE Takayuki <nabe@xxxxxxxxxxxxxxx>
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- Date: Thu, 20 Nov 2003 16:05:33 +0900
渡辺です.
今までに出た意見などを元に,ウェブコンテンツのアクセシビリティガイドライ
ンで取り入れるべき,日本語固有の問題,WCAG2に欠けている項目,を考えてみ
ました.以下,パブコメに使うことやWAIへの提案を意識して書いた文章です.
ご意見やご批判などございましたら歓迎します.
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ウェブコンテンツのアクセシビリティガイドラインとしては,W3CのWCAG1がデファ
クトスタンダートとして世界中で認められています.したがって,WCAG1および
来年度に正式なガイドラインになる予定のWCAG2との整合性をとることも,JISガ
イドラインの重要な点だと思います.
整合性という観点からも,JISガイドラインで日本語固有の問題をしっかり押さ
えておき,WCAG2にも取り入れてもらうべくWAIに提案していく必要があると思い
ます.そこで日本独特なウェブコンテンツのアクセシビリティ問題があるかどう
か検討しました.
[1] 6.9 言語 の a)
「a) 日本語のページでは外国語の多用はせず,より多くの人に理解できるよう
にすることが望ましい。やむをえず多用する場合は,解説をつけるなど理解の
しやすさに配慮しなければならない。
【例】 “Click here!”や“Submit”のように英単語をそのまま表記すると,
利用者によっては理解が困難な場合がある。」
これはこのままでよいと思います.
日本語以外のウェブコンテンツにも適応できる注意点ですので,WCAG2のWDでも,
Guideline3.3に例として取り入れたもらいたいところです.
[2] 6.9 言語 の c)
「c) 読みの難しい言葉には,その読みが分かるように平仮名か片仮名を付ける
ことが望ましい。
【参考】人の名前や地名などは音声ブラウザによっては正しく読まない場合がある。
【例1】 XHTML1.1の場合はルビを振るのに場合にはruby要素を用いる。」
これもこのままでよいと思いますが,以下の点も追加すべきだと考えます.
・参考として,読みが難しい漢字は,視覚が使える場合でも,知的障害者のみな
らず一般人でも苦労することを指摘してください.
・記号文字の読み方の問題
日本語の符号化文字集合は多数の記号文字(【】《》()『』「」■□○●◎★☆
※▽△▲▼)を含んでいます.これらの文字は一種のアイコンのような役割を果
たしていて,見出しとして使われている場合などはその記号自体が意味を持って
います.しかしそうでない使われ方をする場合もあります.したがって,このよ
うな文字に対してスクリーンリーダーが最適な「読み」を与えることは困難です
ので,これらの文字の読み方をウェブコンテンツの中で与えておくべき場合があ
ると思われます.
以上のことは,日本語以外のウェブコンテンツにも適応できる注意点です.
WCAG2のWDにはGuideline3.2にabbreviationとacronymのことが指摘されています
が,どこか適切な箇所で,「文字だけでは読み方がわからない文字(列)には読
み方(発音)がわかるような情報を追加することが望ましい」として取り入れて
もらいたいですね.実現方法としては,HTMLの場合は(この方法が適切かどうか
は別として)abbrタグやacronymタグを流用するか文字の後にカッコつきで読み
を併記するか,XHTML1.1ならruby要素を利用することができると思います.
[3] 6.9 言語 の d)
「d) 表現のために単語の途中にスペースや改行を入れてはならない。」
改行を入れてはならないケースに該当するのは,縦書きを実現するために改行を
入れる場合だと思います.現素案だと,これ以外のケースでも改行を入れてはい
けないように読めてしまうので,以下のように修正してはいかがでしょうか?
ちなみに(CSS3はまだ正式なドキュメントにはなっていませんが)CSS3の
writing-modeを使用すれば縦書きは実現できて,IE5.5はこの機能を実装してい
ます.
例の追加案:
【例】 縦書きで表現したいという理由で一文字ごとに改行タグをいれると,音
声ブラウザはばらばらの文字として認識するので正しく読み上げられない.
国際化を考えた場合もこの項目は有効であると思いますので,WCAG2の例に取り
上げてもらってもよいと思います.
[4] 似て非なる文字
日本語のように文字が多い言語の場合,似て非なる文字があり,間違って使って
しまうことがあります.長音「ー」とマイナス「−」の誤用もその一例です.
(この種の文字には,「−(sjis:0x817c)」,「ー(sjis:0x815b)」,「―
(sjis:0x815c)」,「‐(sjis:0x815d)」,「━(sjis:0x84aa)」,「─
(sjis:849f)」など驚くほどたくさんあります.)
カタカナで「スペース」と書くべきところを「スペ−ス」と書いてしまうと,音
声化システムは正しく読むことができません.この点に関する注意の喚起も必要
だと思います.
このような問題は日本語以外の文字でも生じると思われるので,WCAG2に取り入
れてもらってもよいのではないかと思います.
なお英語圏でも,数字の1とアルファベット小文字のl,数字の0とアルファベッ
ト大文字のO,数字の2とアルファベット大文字のZなどが見た目が似ていて紛ら
わしい文字ですが,これはウェブコンテンツのアクセシビリティの問題というよ
り,コンピュータ利用全般の問題だと思います.
日本語の「ー」と「−」の場合は,読み上げ時に問題となるので,これとは異な
る問題です.
[5] 機種依存文字
日本で標準となっている符号化文字集合(Coded Character Set)のJIS X 0208
に含まれない文字(Windowsなどで使用されている,丸数字やローマ数字などの
いわゆる機種依存文字)を使用すると,そのような文字をサポートしていない利
用環境では,正しく表示されません.しかしこれはウェブコンテンツのアクセシ
ビリティの問題というより,健常者を含むすべての人がコンピュータを使う際に
問題となる事項であり,標準の符号化文字集合を使うのが正しいやり方ですので,
JIS素案やWCAGに入れることはなじまないと思います.
また,国際符号化文字集合であるUnicodeを使うようになれば文字集合も限定さ
れるのでこのような問題は発生しないはずです.
ただ,これと同じ問題は日本語以外の言語でも発生すると思われます.
[6] 複数の文字コード
日本語の文字エンコーディングスキーム(Character Encoding Scheme)には標
準がなく,複数の文字コード(Shift-JIS,JIS(ISO-2022-JP),EUC-JP,Unicode
関連)が存在するために文字化けの原因となっています.しかしこれはウェブコ
ンテンツのアクセシビリティの問題というより,健常者を含むすべての人がコン
ピュータを使う際に問題となる事項であり,近い将来符号化文字集合として
Unicodeが標準となり,文字エンコーディングスキームとしてはUTF-8などが標準
的に使用されることが予想されるので,JIS素案やWCAGに入れることはなじまな
いと思います.
以上.
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渡辺隆行(WATANABE Takayuki) <nabe@xxxxxxxxxxxxxx>
東京女子大学現代文化学部コミュニケーション学科