Re: E&C



この、奈良の課長さんを始め、ユニバーサルデザインにかかわる最も大きな誤解は、
Design for Allを、「(ひとつのものが)すべての人に使えるデザイン」と
間違えてしまうところにあると思います。

「ユニバーサルデザインとは何か」などの著書で知られる国立建築研究所の
古瀬さんともよく話すのですが、「’One fits for all’は幻想です。」
そんなこと、ユニバーサルデザインの7つの原則には、どこにも書いてありません。
しかし、そのように間違って受け取られてしまうところに、問題があるのです。

本来のUDは、たとえば電話機を設置する際、いくつか設置できるのであれば
一つをTTYに、一つを低い位置で椅子付き(車椅子使用者には邪魔にならない
もの)にする、といったことを指します。
一個の電話機が、あらゆる障害者に対応できるスーパーなものでなければ
設置しないという意味ではありません。(しかし、先日SFの空港で見た
新型TTYは、どう見てもパソコンそのもの&電話で、ごく普通の使い方から
TTY,かつネット端末としても使えそうに見えたなあ。あれは何だったんだろう?)

わたしは、UDが、お金をかけずにできる貢献策と受けとめられているとは
全く思えません。むしろ、社会貢献という狭い範囲で、障害者専用品を
作っていた時代のほうが、はるかに楽だったのに、というぼやきが、
企業のデザイン担当者からは聞こえてきます。UDと言い出したが最後、
松下のように、「メインラインをUDに」しなくてはならなくなって
しまう。デザイン過程も、モニター制度も、製品の製造ラインさえ
変更しなくてはならないかもしれない、冗談じゃない、というのが
本音のようです。

実際、視覚障害者向けに点字ボタンをつけている間はまだ楽だったけど、
高齢者対応を研究し始めてからはまりこんでしまい、苦しんでいる
人も出てきています。

これまで企業のデザイナーはみんな20代から30代、高齢者や障害者のニーズには
全く無頓着な人もたくさんいました。彼らに、自分と違う状況の人も
いる、ということを知らせようとしたのが、UDの始まりです。
ものを作る人のための用語だったのが、いつのまにか一般社会へ出てきて
同時に誤解も広まりました。

しかし、産業界は転換せざるを得ないでしょう。あと4年で、日本は成人の
50%が50代以上という、未曾有の高齢社会を迎えます。

多くの高齢者が障害を持ち、かつ、若い障害者の親も、年をとっていきます。

わたしは、いま、いろんな企業に、障害者を雇用しろと説得して回って
います。専用品だけではなく、一般品のデザインも一緒にやっていくように。
共用サービスも一緒に作っていくように。
一個のものがすべての人に対応はできない、でも、人間のサービスを
加えればUDになるものもたくさんあるからです。高齢化社会に対応する
製品を作れるのは、障害者だと思っています。

かつ、専用品を作ってきた会社と、もっと提携することも勧めています。
これまでのノウハウは、大きな力です。専用品の狭い市場から、一般品へと
広がる技術もあるはずです。障害者ベンチャーが活躍するかもしれません。
他のひとではかけがえがないからです。

もちろん、専用品の市場を支える体制づくりも、きっちりやっていく必要が
あります。リハ法508条のように政府の調達基準を変更したり、ISO側の
働きかけも重要だと思っています。13407とか。

それでも、インテグレーションの進んでいない日本では、きっと20年はかかると
思っています。UDの本質が理解され、それなりの成果があがるまで、1世代の
交代を待つしかないでしょう。

すみません。長くなりました。



株式会社ユーディット(情報のユニバーサルデザイン研究所)
Universal Design Institute for Information Technology(UDIT)
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代表取締役 関根千佳
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